注入異物後遺症の基礎知識

注入異物後遺症について

フィラー注入による若返り施術はダウンタイムも少なく、メスに頼らずとも素晴らしい効果が得られます。
しかし不適切な素材や打ち方によって以下のように様々なトラブルが報告されています。

 

しこり
感染

アレルギー
移動
変形
異物肉芽腫
血管内誤注入による皮膚壊死・失明・脳梗塞など

 

素材によるもの、手技によるもの、原因は様々です。
注入治療の怖さは、上記の後遺症症状が施術直後だけでなく何年経っても時間差で遅れて出現することです。


摘出手術を行う場合、正常な組織に障害を残さず、傷跡を残さず、可能な限り元通りにしなければなりません。
針穴から注入するのは簡単ですが、取り除くのは何倍もの労力を必要とするのです。


注入後遺症治療に関しては大学病院の専門外来で15年以上治療に従事して参りました。
今までの診療経験が、少しでも後遺症に苦しむ患者様のお役に立てればと思います。

院長の経歴と業績

参考コラム
厚生労働省の美容医療ガイドラインを作成しました

 

様々な注入材料

注入材料の代表的な素材を紹介します。

吸収性フィラー
ヒアルロン酸、コラーゲン、レディエッセ、エランセ、スネコスなど

 

非吸収性フィラー
アクアミド、アクアフィリングアクアリフトロスデラインアクティブジェル、アメージングジェル、ダーマライブ、バイオアルカミド、液体シリコン、豊胸バッグ破損後シリコン漏れ、など

 

生体材料
脂肪、PRP、FGF、幹細胞など

 

以上に紹介した素材の他にも、多数の詳細不明物質や、新素材によるトラブルが日々増加しています。

具体的な後遺症の症状

 

【しこり】
ヒアルロン酸、アクアミド、アクアフィリング、注入脂肪など全ての素材で起こりうる、最も訴えの多い症状です。一箇所に大量に注入すると、注入物の周りに被膜を形成して、硬いかたまりに変性することがあります。
脂肪の場合は生着せずに嚢腫形成といってかたまりに変性することがあります。壊死、線維化、石灰化などを起こして硬いしこりとして触れるようになります。その他、皮下の浅すぎる場所に入れてしまったなども原因の一つになります。脂肪注入による豊胸術では、皮膚と乳腺の間で雑に注入された大きな塊の脂肪が生着せずにしこりとして触れることがあります。
目の下など皮膚の薄い場所では特に目立ちやすい症状です。見た目でわかるくらい常に浮き出ていたり、見た目には目立たなくても硬いしこりが触れる場合など、様々です。 脂肪注入の生着にばらつきが出て、数ヶ月に凸凹が浮き出てくる場合や、ヒアルロン酸でも笑った表情の時だけ浮き出てくるようなわかりにくい場合もあります。美容手術の評価は静止画ではありません。施術直後の綺麗な瞬間だけを切り取ったInstagramの症例写真では決してわからない、注入治療の闇の一つかもしれません。
素材によってヒアルロニダーゼや脂肪溶解注射などによる溶解療法を試みることもありますが、溶解治療に反応しない場合は丁寧な摘出手術で対処します。

 

参考コラム(☆☆☆)
目の下のしこりでお悩みの方、除去手術は可能です
目の下の注入異物に関して部位別に検証してみました



目の下、注入脂肪+FGF注入後のしこりを除去しました。

 

【感染とアレルギー】
真っ赤に腫れ上がる時は要注意です。なるべく早く原因を取り除いた方が良いでしょう。
吸収性フィラーであろうと非吸収性フィラーであろうと、異物(=血流の無い組織)を体内に入れた場合、感染とアレルギーの可能性は常に付きまといます。まず感染ですが、不慣れな医師、不潔なクリニック、不潔な操作などで注入時に菌を体内に押し込む可能性があります。数年経ってからいきなり症状が出ることもあります。体内の他の部位で感染症状を起こした場合、菌の塊が血流に乗って注入物にたどり着き、そこに定住することがあります。血流が無いので抗生剤も届きにくいです。ヒアルロン酸であればヒアルロニダーゼで原因の除去を試みます。
アレルギー反応も急性期の真っ赤な腫れだけでなく、時間が経過してから発症する可能性があります。体内の外敵に対する防御反応として、コラーゲンの塊を作り、異物肉芽腫になるのです。これも硬いしこりとして触れます。少量のステロイドが効く可能性がありますが、副作用として皮膚変性や陥凹変形の可能性があります。当院では手術治療のみご対応いたします。ステロイド治療は行っておりません。

海外で目の下に詳細不明フィラー注入。
帰国してから目の上までパンパンに腫れ上がりました。

 

【移動と変形】
注入物がいつまでも注入直後の良い感じの場所に留まっているとは考えないでください。もちろん脂肪区画や膜・靭帯構造により比較的動きにくい場所はありますが、基本的には重力や表情筋の動きなどで移動と変形が起きます。乳房であれば過度の外的刺激で背部や腹部に移動します。エステのマッサージで顔や乳房が変形したという訴えは多いです。ヒアルロン酸豊胸術後で背中や足まで移動したケースを拝見したこともあります。
私が特に”非吸収性フィラー”を絶対にお勧めしない最大の理由はここにあります。移動や変形に伴い細かく分散することで更に摘出手術が困難になり、異物としてのリスクが永久に残るのです。摘出手術をお考えの方は、できればひとかたまりで取りやすいうちにご相談に来ていただきたいと思います。
分散のリスクが無いという意味では、シリコンプロテーゼのような固形素材の方が摘出手術は容易です。
吸収性フィラーであるヒアルロン酸でも移動や変形はするのですが、数ccの単位や数年程度の経過の場合ではほとんど移動に気づかない程度でいつのまにか吸収されてしまっているだけのことです。吸収分解されるからこそ、安心安全なのです。

厚生労働省が認可した安全なヒアルロン酸製剤を、その時々の老化のステージに応じて、信頼できるかかりつけ医に本当に必要な分だけ少しずつ注入してもらう、フィラー注入はそんな付き合い方がお勧めです。
顔面の解剖は加齢で変化します。注入物は移動も変形もします。一度に大量注入する必要もありません。長持ちやコスパなど、耳障りの良い言葉に騙されないでください。
非吸収性(永久)フィラーは長持ちしますが、「注入直後の良い感じの効果」の長持ちはありません。移動・変形した後は、リスクだけと永久に付き合うことになります。


参考コラム

アクアフィリング豊胸術は何が問題なのか
アクアフィリング除去に関する院長の論文


左乳房のアクアフィリングが下腹部まで滑り落ちた状態です。 

 

【長期に残存】
吸収性フィラーなのに長年吸収されないことがあります。ある程度のサイズを超えて一箇所に大量注入を行うと被膜形成が起きて中心部まで吸収分解効果が及ばなくなる事はよく知られています。また部位によっては小さめの注入サイズでも起こり得ます。当院では目の下たるみ取り手術の件数が多く連日やっておりますが、切開して開けた時に10年前のヒアルロン酸がそのまま残っていることなども珍しくありません。硬めの靭帯や筋膜の隙間に囚われて分解がすすみにくい、もしくは小さくても被膜形成をしてしまったのかもしれません。こうなると外科治療が必要な場合が多いですが、部位を見極めたヒアルロニダーゼの適切な再注入でも改善する可能性があります。お気軽にご相談ください。

参考コラム
ヒアルロニダーゼの適切な使用法
ヒアルロニダーゼがいまいち効かないときありますね

 

【骨の変形】
長持ち・安定させるためのテクニックとして骨膜上(もしくは骨膜内)に注入する場合がありますが、数年の経過で土台の骨が溶けて変形してくることがあります。例えばあごプロテーゼはほぼ全例で下顎骨が凹みますが、ヒアルロン酸などの注入物による柔らかい素材の塊でも数年の経過で凹みが出る報告が見られます。

あごにクレビエルの注入歴あり。
骨に凹み変形が見られます。

 

【生着不全・壊死・硬結・過剰増殖】
生体材料特有の症状です。フィラー製剤と異なり、移動や変形は少ないですが生着にムラができることによりシコリを生じます。液状まで細かくした脂肪注入は直後の仕上がりは綺麗ですが、全てが定着するとは限らず、数ヶ月〜数年の経過で生着に偏りが出てくることがあります。生着せずに死んだ脂肪が石灰化して硬いしこりを作ります。嚢腫(シスト)といって、中身は溶けた脂質のオイルが貯まります。目の下の薄い皮膚で、大小の硬いしこりが浮き出てくる方、乳房の皮下でしこりを触れる方が多いです。脂肪注入は丁寧に細かく行えば大変良い施術ではありますが、当院に来院される後遺症の方を拝見すると、やはり術者の技量や施設によって結果に偏りが出ているようです。
いまだに議論の多い成長因子製剤・FGF関連の注入療法に関しては、過剰増殖のコントロールやしこりなどの合併症に対する治療法が完全に確立しているとは言えず、個人的にはお勧めしておりません。 今は何も無いが将来的に過剰増殖が心配というご相談にも対応しかねますので施術した施設でご相談ください。シコリができた場合に除去手術をご希望される場合のみ、可能な範囲で対処いたします。

一箇所に大量に脂肪を注入すると被膜形成します。
内部には壊死した中身がオイル状に貯まります。

 

【血管内塞栓】
注入時に針やカニューレの先端が血管を突き破り、血管内に誤注入して詰まらせることで血行障害を起こします。血流の途絶えた組織は死に至りますので不可逆性の致命的な後遺症を起こします。視神経を栄養する血管が詰まれば失明します。脳梗塞や肺塞栓、皮膚壊死など、詰まる血管によってさまざまな重篤な症状を引き起こします。ヒアルロン酸塞栓の場合は早期であれば塞栓部位にヒアルロニダーゼの大量投与を行います。続発する血栓症状に対して溶解療法が必要になる場合もあります。非吸収性フィラーの場合、治療は極めて困難になります。

参考コラム
ヒアルロン酸、溶かした後も油断しないで。

鼻根部レディエッセ。
注入時に血管内に誤注入され皮膚が壊死しました。


 

摘出手術の実際

皮膚の下の異物を取り除くためには、アプローチとしてどこかを切開する必要があります。
しかし形成外科専門医としては安直に異物やしこりの真上、顔や乳房の目立つ場所にキズをつける方法は許容できません。

顔であれば鼻粘膜、口腔粘膜、睫毛の際ぎりぎり、フェイスリフト切開、毛髪内、眉毛内など。
乳房であれば乳房下溝縁、乳輪内、わきの下など。
古い怪我や手術の痕などがあれば利用させて頂くこともあります。

できるだけ術後に目立たない場所からアプローチして、できるだけ健常組織を温存して、可能な限り異物成分を取り除きます。
当院では手術用顕微鏡を使用して重要な神経血管、筋繊維の一本一本を温存するように丁寧に異物を除去するようにしています。

 

 

切開アプローチの例。 生え際皮膚や、口腔粘膜や鼻粘膜、有毛部内など目立たない場所を切ります。

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BR CLINIC GINZAは、
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