アクアフィリングの危険性について

アクアフィリングの危険性について

 

AQUAfilling®は98%の塩化ナトリウム溶液と2%のコポリアミドで構成された生体充填剤です。
同様の製剤に、AQUAlift®(2015年にActivegel®に改名)、LosDeline®(2018年にAquafilling®から改名)があります。
これらは名前が違うだけで基本的には同じ物だと思ってください。
以下、この4製剤をまとめて便宜上”アクアフィリング”とカタカナ表記で呼ぶことにします。
これらの製剤を使用した豊胸手術により合併症患者が相次ぎ、数年前に社会問題になりました。



朝日新聞(2018年11月27日)
豊胸充てん剤トラブル続発 学会が使用禁止の指針策定へ

 


10年ほど前に、『AQUAMID®』という顔面への非吸収性充填剤によるシワ取り施術により多くの合併症患者を生み出し、学会で大きな問題になったことがあります。これはポリアクリルアミドという素材で構成されており、乳房増大用には50ml製剤の『Amazingel®(中国名:奥美定)』があります。中国では20万人以上の被害者を出したと言われており、中国CFDAが2006年に使用禁止しているほどの製剤です。
コラム「アクアミドなどの下眼瞼注入トラブルに対する治療戦略」

 

AQUAfilling®が流通し始めたころ、AQUAMID®を連想させるこの製品に対して私は大きな警戒心を抱きました。
しかし当時の取扱業者の説明では、「AQUAMID®やAmazingel®のようなポリアクリルアミド製剤とは化学的構造が異なる、”コポリアミド”と呼ばれる全く新しい製剤であり、生理食塩水で簡単に溶解できるため安全である」とのことでした(今にして思えば彼らもメーカーからそのように情報提供されただけなのかもしれません)。

この説明にどうしても安心できなかった私は一度も使用しませんでしたが、結果としてアクアフィリングは低侵襲な乳房増大術の材料として多く市場に出回ることになりました。
局所麻酔で簡単に注入処置ができる上にヒアルロン酸よりも長期効果を期待でき、ダウンタイムもほぼ無く、なおかつ短時間の施術で十分な売上が見込める(多くの患者を回せる)”おいしい”施術は、いくつかの美容クリニックにおいては商業的にも大変魅力的なコンセプトであったのです。

 


しかし、やはり私を含む一部の医師が危惧していたとおりに、ポリアクリルアミド製剤と極めて類似した後遺症症状の報告が相次ぐことになりました。
まず韓国乳房美容再建​外科学会がその危険性について重大な懸念を示し、使用を推奨しない立場を明確に表明しました。追従する形で数年後に日本の関連学会も同様の声明を出しています。ちなみに私は日本美容外科学会(JSAPS)で評議員を、日本美容医療協会で理事を務めており、日本版の共同声明文の原案作成にも関わっております。

 


朝日新聞(2019年4月25日)豊胸手術でジェル剤「使うべきでない」 学会などが声明

 

 

昨年私は、アクアフィリングの除去治療を数多く行ってきた経験に基づき、後遺症症例について統計を取り、典型的な症状を論文にまとめました。
また成分分析調査も行った世界で初の報告となります。

Nomoto, S., Hirakawa, K., Ogawa, R. Safety of Copolyamide Filler Injection for Breast Augmentation. Plastic and Reconstructive Surgery - Global Open 2021;9.

 

 

分析結果ではAQUAMID®、Amazingel®、Aqualiftなどを構成する成分がかなり近似した組成であることを証明しました。
これらが生体内に存在する限り、感染、アレルギー、移動、変形など様々な合併症のリスクをずっと抱え続けます。
遅発性の発症も珍しくありません。数十年後に突然何かが起こることもありえるのです。

 

 

上図はAqualift 50g製剤の水分が揮発したあとに残った、プラスチック様の固形成分。2%の“コポリアミド”の正体です。
片側200gのアクアフィリング豊胸を行った方は、単純計算でこれが8個分、体内に存在しているとお考えください。

注入物の周囲に厚い皮膜を形成してシリコンバッグのように一箇所に大きな塊として留まっていれば比較的洗浄除去しやすいですが、大抵はそうでない場合が多いです。

 


これまでの膨大な除去手術の経験や基礎研究から得られた結果を総合すると、アクアフィリングが非吸収性充填剤であることは疑いようのない事実です。
体内で分散してしまった場合は生理食塩水で簡単に洗浄除去するなどは到底不可能であり、完全除去は困難であると言わざるを得ません。

アクアフィリングのリスクはアクアミドのような既存のポリアクリルアミド製剤と同等に扱うべきであり、長期的な安全性が十分に確立されるまでは、これらの製剤を使用しないことを改めて強く推奨します。

 

※現在当院では乳房アクアフィリングや鼻アクアミドなどの除去手術は新規受け入れを停止しております。

 

 

 

野本俊一(@Shunichi_Nomoto)

野本俊一(@shunichi_nomoto)

 

 

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